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ランドマークとなった建築物

建築デザイン

 

スノヘッタ・ハムザ・コンソーシアム、建築家、技術者

新アレクサンドリア図書館の建物の最大の特徴はその円形の姿です。湾岸道路が走る水平線に威風堂々とそそり立ち、その姿は実に際立っています。上空からの眺めは太陽(エジプトの象形文字では太陽は円盤として表されています)をイメージさせます。この設計のコンセプトの大きな注目点は、まるで地面を境にして建物の片側を地下に傾斜させ、反対の側がせり上がるようなデザインであることです。この面の切り取り方は、時間を切り取るイメージにも重なっています。ここには、時間というものが地球の自転と太陽との関係で定義されるものという前提があります。太陽光の作用を受ける水平線が「時間」を表わし、実際に人が通る地表面が「現在」を表しています。つまり、地面の高さに「現在」が過去と未来に出会う一点があるのです。

BA Building Model

斜めの建物から連想するムーブメントは、曲線を描く外壁によっても明らかにされています。建物はまるで地平面を基点として転回し、地上部分と地下部分が交互に出没を繰り返しているかのようです。こうしたポジとネガの両面を併せもつイメージが、建物の第一印象を強烈なものにしています。このイメージはさらに壁面のテクスチャーにも見ることができます。大自然の岩石の模様に刻みこまれた現在にいたる時間の重なりから、あたかも水平面が斜めにせり上がったように見えます。この壁はびっしりと文字が刻まれた石板の層になっており、光と影によってこの外壁そのものもポジとネガのイメージとなっています。

建物の周囲は水が取り囲み、基平面は空と対峙しています。水面に太陽と外壁が映る様は、太陽と水と大地の融合という大自然の根源的な力のイメージであり、人間が作った建造物によってここに動かぬものになっています。斜面にならんだ長方形が建物の高さを満たし、また、これによってできた碁盤目が内側の空間をカバーする複雑な形のスクリーンを形作っています。これは、建物のほぼ全体の高さをルーフ(屋根)でおおうという、従来の高さの捉え方を一変させる手法です。天井に設置されたソーラーセイルが縦の模様を生み、これにより太陽光が内部に拡散するようになっています。この構造は、音と光と温度に関係するさまざまな事象に対処するようになっており、人間の皮膚のようです。さらに、このルーフは、ここを通して中から外、外から中を眺めることのできる連結部の役目も果たしています。「覆い」という外観からは、一見してひとつのパターンしか思い浮かばないものですが、実は3層構造で変化するようになっています。建物の内外の構造的な変化、スクリーンが太陽光を調節するときに生じる明暗の概念的な変化、図書館がもつ複雑で多岐にわたる情報といったものがこのルーフ構造に暗示されています。さらにルーフは内や外の活動状況を記録する「マイクロチップ」のようにも見えるかもしれません。

一般原理として、「運動」は無限大の三次元の「空間」でなされます。一方、「時間」は一次元のものです。「空間」は物体の填充性、共存、相対的配列、相対距離を表しています。「時間」の中の運動は不可逆なもので、すべて一方向にしか進みません。つまり、過去から現在、そしておそらく未来へと進みます。それゆえ、アレクサンドリアの新しい図書館に「空間」を提供するということは、おのずと数限りない団体組織の支援、つまり『ビブリオシカ・アレクサンドリナ』誕生までの歴史と普遍的な魅力をもつエジプト文化の歴史に根ざす組織がその基盤になるということです。そのような団体組織は、人類の経験と業績において20世紀を代表し、21世紀への移行期において新たな時代への進展に何らかの示唆を与えるものとして位置付けられる存在にちがいありません。そして、各々の組織もまた、図書館そのものが提供し、役立ち、代表するものに基準を置くことになるでしょう。団体組織がどのような個別の経験や文化的な知性や背景、意向や場所に基盤を置いていようと、図書館という空間が、それらを鼓舞し、受容し、吸収し、推進し、建設的な指示を与え、結果として、「時間」と「空間」とを生き生きとつなぐ役割を果たすことになることでしょう。

図書館とは求められるものに応じて変幻自在にその姿を変えるものでなくてはなりません。時間はこのような活力とともに変化し、人類が創造活動をするための空間というものを作り出します。図書館は、思いつく限りのあらゆる事柄に関して、深く考えをめぐらし議論を交わす場所となって、いかなる結びつきや解釈であれ、求め奨励するものです。新図書館『ビブリオシカ・アレクサンドリナ』は、斜めに下がる細い橋を渡り、また建物の端にある中庭を通り抜けて本館に行くことができるようになっています。さらに、開館時間内であれば、大学キャンパスからも湾岸道路からも、階段のある橋を通って直接図書館に行くことができます。プラザ広場には、大きな球形のプラネタリウムがあり、地下部分は逆ピラミッドの形をした空間で、科学博物館となっています。物体がもつドラマ性は、その内側にある中身で決まるものです。案内ルートに沿って進むと、外壁のテクスチャーが視界に入ってきます。壁面を構成するのは古今の聖典の一節やシンボルで、この壁面によって我々の魂の内に流れ込んでくるのは、新図書館で出会う探求する心です。

大きな玄関ドアを通りぬけると、広いガラス張りのホール。ここは古代プトレマイオス王朝に由来して「プトレマイオス・ホール」と名づけられています。このホールから3つの階へと進んでいきます。ホール内には展示とパフォーマンス用スペース、ブックショップ、カフェテリア、青少年図書館があり、窓のようにプラザ広場に面しています。ここを過ぎると通路は狭くなり、小さなチェックポイントを通過して「カリマコス・ホール」に出ます。ここはかの偉大な詩人であり古代図書館の館長であったカリマコスに因んでその名がつけられています。このホールには細かい装飾や優雅な階段があって、豪華に訪問者を出迎えてくれます。ここからいよいよ建物の中心部へと進みます。巨大なガラスの壁の前を通りバルコニーへと出ます。ここではじめて新図書館の内部空間を一望することになるのです。眼前には光とテキスチャーが織り成す大パノラマが広がります。それは光が拡散する一枚の大きなシートの下にぐるりと細い柱が林立する光景です。曲線を描く巨大な壁面は今度はその内側を見せています。幅160m、深さ80mの空間は、大冒険をするような期待に充分応えてくれます。フロアはテラス状に10階に分かれ、各階の蔵書スペースがまるで流れ落ちる滝に囲まれているかのように見える効果を生んでいます。このテラス構造がこの図書館をユニークな存在にしています。各テラスの奥には分野毎の蔵書保管スペースが設けられ、柔軟な構成が可能になっています。各階へは外側の廊下か渡り廊下で行くことができます。つまり、館内での眺望は書庫の高さによって遮られることはないのです。どのテラスでも眺望はどの方向を向いても遮られることはありません。この空間に立つと、そこは古代図書館の大ホールを彷彿とさせながらも、現代の思考の柔軟性と広がりを堅持している場所なのです。

図書館の内部は、上部やライト・コートから自然光が取り入れられています。また、空調については、オーディオ・ビジュアルのコレクション、古文書、希少本などの保管場所、管理・運営・技術部門など、各エリアの状況に応じて注意深くコントロールされています。

『ビブリオシカ・アレクサンドリナ』は図書館本来の機能をもつだけにとどまりません。そのひとつに、隣接する会議センターとの連携があります。それぞれは独立組織ですが、一部の施設とカルチャー広場を共有しています。この連携によって、議論と研究という二つの哲学のあり方の理想が守られています。名声を高める建築、『ビブリオシカ・アレクサンドリナ』は、1998年以降ずっと、世界でも一流の研究資料と設備が集約されており、科学と芸術と人間文化を築き上げる新たな担い手となりつつあります。公共の自治運営組織として発展し、ここのデータベースは世界の図書館ネットワークにつながっています。メインとなるのは、ヘレニズムやエジプトやイスラム関連のものから現代の文学にいたる書物です。オープン時の書籍数は20万冊あまりでしたが、2020年までに500万~800万冊とするのが目標です。さらに、ここには7つの研究センター、各種博物館と展示物があります。『ビブリオシカ・アレクサンドリナ』が際立つのは、地中海沿岸の地の元来の魅力を引き出すとともに、そこに重要な研究施設を作り上げたことです。古代図書館が過去に実現したように、遠い未来に引き継ぐ知的遺産を生むことを新図書館にも大いに期待できます。ここはまさに、今から2300年以上をさかのぼるアレクサンダー大王の時代から現代へ、そしてその先の未来にまで影響をおよぼす知の殿堂なのです。