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内田 繁(インテリアデザイナー)

「弱さ」のデザインーウィークモダニティを考える

未来への超越のための準備として

内田 繁(インテリアデザイナー) 「弱さ」のデザインーウィークモダニティを考える 未来への超越のための準備として

Q1. 「弱さ」のデザインとはどういうことでしょうか。

現代社会の問題点を多元性という観点から考えるとき、内田さんが国際的なご活躍のなかで提示されている「弱さ」のデザインというのは、大変興味深く思われます。これについて、教えてください。

「弱さ」のデザインとは、けして「形」だけの問題ではありません。むしろ、形から離れたところに「弱さ」は潜んでいます。しかし、私たちデザイナーの仕事は、そうした見えない世界のものを何らかの方法で視覚的世界・触覚的領域へと導き、認識的世界をつくらなくてはなりません。そこで、この広範囲な世界をひも解きながら「弱さ」のデザインについて考えていきたいと思います。

 

まず、なぜ「弱さ」という概念を持ち出したかと申しますと、20世紀の歴史は「弱さ」を克服し、強さや、強い社会に向かっていったのではないかと考えたからです。そして、その強さは、20世紀後半にもなりますと、構築的で規範的、固定的で自由度の少ない状況を生み出してきました。デザインを取り巻く生活文化も、資本主義社会の経済優先主義に取込まれ、合理主義社会の能率によって企業利益を主題としてきたわけです。近代合理主義の基本構造は、資本主義社会をめざしたものでした。資本主義とは、私的利潤の自由かつ無限な追求です。つまり、企業の利益を優先し、そのこと自体を社会常識としたわけです。多くのものは、そうした構造のなかから生まれ、けっして人間生活を優先したものにはなっていません。そうした理念の下敷きとなったものが近代合理主義でした。近代合理主義の理念をルイス・マンフォードは、科学技術を背景とした「力、速度、標準化、大量生産、定量化、組織化、制度、画一性、規則正しさ、制御」などによるすべての構築としました。これは「弱さ」を含んだ人間から見たら、およそかけ離れたものでした。

 

このように20世紀の歴史は、「弱さ」を克服していくことによって肥大化していったわけです。この場合「弱さ」とは、合理的でないもの、目に見えないもの、手に触れられないもの、あいまいなもの、不定形なものなど、近代合理主義の枠から外れるものをいい、それらを抹殺することによって、強さをつくり出したのです。

 

しかし、人間とは、そう強いものでもありません。移ろいやすく、気まぐれで、傷つきやすく、脆いものです。そうした人間を取り巻く世界は、近代の合理性とはだいぶ違うものです。しかし、ここでいう「弱さ」とは、けっして強さの対比的なものではありません。「弱さ」とは、それ自体が持つ独自のピアニッシモなイメージのことです。

 

たとえば、「弱さ」は美的世界において独特のニュアンスをつくり出しています。「繊細で、一見壊れやすいもの」、「小さくて細やかなもの」、「柔らかくて不定形なもの」には、大きくて硬くて重いものには見られない独特のものがあります。また、見えない何かを想い、静かにたたずむ描写は、人の気持ちのなかに、やさしさと静けさ、危うさと切なさをつくり出します。これは、強さとの対比の問題ではなく、「弱さ」が独自にもつ特性なのです。

 

 

Q2. 具体的には、「弱さ」をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

「弱さ」について考えると、「弱さ」とは実に多様なものであることに気づきます。たとえば、「社会的な弱さ」というものがあります。現代社会固有の思考が独自の規範をつくり、それらからはみ出したものを抹殺するような状況での弱さです。

 

あるいは、「身体的な弱さ」というものもあります。健常な身体をもたない弱さですが、実はそうであるがゆえに健常者にはない特徴的な才能を発揮する場合が多くあります。以前、都会の雑踏のなかで、私はベンチに座って何もできずにいたことがありました。が、その周辺で、聴覚障害者たちは雑音のなかにも拘わらず、手話によって十分なコミュニケーションを図っていたのです。私たち健常者は、聴覚を頼りにコミュニケーションを行いますが、この状況はショックでした。さらに、あるテレビの取材で知ったことですが、テープレコーダーに録音された内容を視覚障害者に聴かせたところ、4倍の早さにしてもその内容を聴き取ることが可能でした。このように、「身体的な弱さ」は、私たちにない知覚・感覚を発達させるのです。

 

また、「社会的に認知されないことの弱さ」もあります。固有文化の経験が他の文化圏では排除されるような状況です。他にも、「記憶というファジーなものの弱さ」、そして「不定形なもの」、「変化するもの」、「消えてしまうようなもの」、「あいまいなもの」、「不安定なもの」などは、計測することのできないものとして、理解の外におかれてきました。そうした「弱さ」をめぐる世界を、人生の無意味さ、弱点の根源と見るか、逆に、それゆえ幸福の根底と捉えるかによって、この「弱さ」をめぐる論議は分かれるわけです。

 

また「弱さ」とは、単に弱いことだけを指すのではありません。「弱さ」という感覚世界がつくり出す感情と深く関わることでもあります。例えば、「自然の移り変わりがつくり出す驚きに満ちた世界」、「日常の生活空間の瞬間がもたらす風景」、「すれ違いざまに嗅ぐ香りが懐かしい記憶の断片を甦らせるような切なさ」、「詩のつくり出した世界に浮かぶはるかな空間」、「なつかしい音楽が眠っていた感情を掘り起こすような時間」、「何かの部分、断片から広がる想像の世界」、「街角のカフェでぼうっと何かを眺めている少女」、「トワイライトといった時間がもたらす昼と夜との境界」、「朽ち果てる寸前の廃屋」、「古く錆びついた看板」等々。

 

こうしたものや状況がつくり出す情感は、けして傲慢な心、攻撃的で凶暴な心から生まれるのではなく、そこにはやさしさと憂い、寂しさと侘びしさ、はかなさと移ろいやすさなど、慈しむ心が潜在しています。そもそも人間とは、さほど強いものでもありません。移ろいやすく気まぐれで、傷つきやすくて脆いものです。そうした人間を取り巻く世界は、近代のいうところの合理性とはだいぶ違うものです。

内田 繁(インテリアデザイナー)

内田 繁(うちだ しげる)

Shigeru Uchida

インテリアデザイナー

東京造形大学客員教授

桑沢デザイン研究所客員教授

 

[ 略歴 ]

1943年横浜生まれ。

桑沢デザイン研究所卒業。

1970年内田デザイン事務所設立。

1983年毎日デザイン賞、2000年芸術選奨文部大臣賞等を受賞。

2007年紫綬褒章受章。

日本を代表するデザイナーとして、商・住空間、家具、工業デザインから地域開発に至る幅広い活動を国内外で展開している。代表作に山本耀司の一連のブティック、ホテル イル・パラッツォ、神戸ファッション美術館、茶室「受庵・想庵・行庵」、 門司港ホテル、オリエンタルホテル広島などがある。また、メトロポリタン美術館、モントリオール美術館等に、多くの作品が永久コレクションとして収蔵されている。

 

主な著書

『プライバシーの境界線』(共著 住まいの図書館出版局)/『日本のインテリア全四巻』(六耀社)/『家具の本』『インテリアと日本人』(晶文社)/『茶室とインテリア—暮らしの空間デザイン』工作舎 など

 

内田繁デザイン研究所の
ページへ

http://www.uchida-design.jp/